「集団介護」で社会保障費の高騰を乗り切る!
今回がいよいよ第3回となります。
第1回:https://pf.japandayservice.com/%e3%81%8a%e5%bd%b9%e7%ab%8b%e3%81%a1/post-1979/
第2回:https://pf.japandayservice.com/%e3%81%8a%e5%bd%b9%e7%ab%8b%e3%81%a1/post-1982/
■“集団”は“悪”なのか?
「集団介護」というと、悪いイメージを持っている方が多いと思います。例えば、デイサービスの入浴の際に、ベルトコンベアーのように脱衣室に利用者を誘導し、次々に“手際よく”入れていくイメージでしょうか。このように「集団」が諸悪の根源のように言われ「個別ケア」がもてはやされた時代もありました。
しかし、これだけ事業所間の競争が激しくなったいま、“集団”だからといって、物を処理するかのように右から左に流すようなサービスをしていたら、たちまち利用者は逃げていってしまうでしょう。それに、「個別=1対1のケア」と「集団=1対多」を比較したときに、コスト面ではどうでしょう。個別はたしかに理想ではありますが、1対10→1対5→1対3→1対1というように、個別性が高まれば、それだけ“コスト”は高くなります。
例えば入浴の場面ではどうでしょう。訪問介護でヘルパーがマンツーマンでつきっきりでケアするのと、利用者5人に対して1人の人員基準であるデイサービスで、誘導〜脱衣〜入浴〜更衣〜整容までを複数名でケアするのとでは、当然そこにかかるコストは変わってきます。
■「1対1」より「1対多」の方が効率的でリーズナブル
もちろんこれは、訪問入浴介護や訪問介護サービスを否定しているわけではありません。自宅や高齢者住宅を出ることができない方、看取り期の方には、訪問入浴は不可欠なサービスです。また、訪問介護も、重度の方の身体、生活面での介助はもちろん、軽中度の方にも、ちょっとしたサポートをすれば、在宅生活を延伸することは可能です。訪問リハや訪問看護も然りで、在宅での1対1のサービスはなくてはならないものです。
しかし、同じADLの方に対して、同程度(というと語弊があるかもしれませんが)のケア、機能訓練、サポートを提供するとしたら、「個別(1対1)」と「集団(1対多 ※スタッフ1人で多くの利用者に対応)」のいずれが効率的でリーズナブルであることは、誰もが予測がつくことでしょう。
仮に要介護2の方に対して、以下のようなサービスを提供したとしましょう。
提供するサービス | □バイタルチェック・健康観察
□機能訓練40分(リハ職関与) □入浴介助 □複数回のトイレサポート □昼食準備&サポート □服薬サポート □口腔ケア |
このケア、訓練を“1対多”であるデイサービスと、“個別ケア”である訪問介護、訪問看護の組合わせで対応すると、このようになります。
ケース1
1対1サービス ※処遇改善加算除く |
1)デイサービス(7時間)
基本単価+入浴介助加算Ⅰ+個別機能訓練加算Ⅰロ 合計:773+40+85=898単位 |
ケース2
1対多サービス ※処遇改善加算除く |
1)訪問介護サービス
(身体2生活1/身体30〜60分・生活45分未満) 基本単価460単位 2)訪問看護サービス(理学療法士等/2単位/40分) 基本単価586単位 合計:1113単位 |
つまり同程度のケア、訓練を提供するとしたら、1セットで約200単位(約20%)も“1対多”の方がリーズナブルということになります。
こうして単純比較すると「個別と集団では、目的や提供しているクオリティが違う」と一部の方からは怒られそうですが、その通りです。逆に、入浴や機能訓練などは、設備が充実している「1対多(デイサービス)」の方が優れているところもあります。そもそも単純比較すべきではありません。あくまでマクロな視点です。
■介護職員の不足を“1対多”で解決できないか
またこんなデータもあります。表のように、2025年には32万人、2040年には69万人もの介護人材が不足するそうです。
【第8期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について(厚生労働省R3.7.9)】
年度 | 介護職員数 | 現状とのギャップ |
2023 | 約233万人 | 約22万人 |
2025 | 約243万人 | 約32万人 |
2040 | 約280万人 | 約69万人 |
さて、このギャップをロボット、ICT機器でうめられるでしょうか。現在、特養や老健などの入所系施設の入所者に対する介護・職員の人員配置は3対1(スタッフ1人で3人に対応)ですが、介護ロボットや見守りセンサーを駆使することで「4対1」の人員基準にできないか、規制改革推進会議をきっかけとして実証実験しようとしています。
療養病棟の看護師の人員配置がちょうど4対1ですから、せめてその水準にはしていきたいところです。私もそうなることを期待していますが、残念ながら現状は、3人で良いところを2人前後配置している施設が多く「思ったほど削減できないのではないか」という予測が大半です。
前述の「必要数」の予測は、あくまで「入所」と「在宅」のバランスや、「個別」と「集団」のバランスが、現状のまま維持される想定。「個別」と「集団」のバランスが崩れれば、さらに不足は大きくなるかもしれません。
逆に「1対多」が増えれば、必要数は減少する可能性もあります。つまり“介護職員が少なくて済む”ということです。
■「1対多ケア」が社会保障費抑制の救世主だ
つまり私が言いたいのは「1対多ケア」を今以上に重視することが、マクロな視点で見れば介護費における国庫負担を下げることにつながるのではないかということです。究極は“遠隔”でしょうか。1人で大人数に対応できるようなシステムができれば、国庫負担は大幅に下がります。
シンプルに言えば、この表に示す1対1の割合を下げ、1対多、1対大人数の割合を上げることができれば、大きな改善が見込めます。
対応人数 ※スタッフ:利用者 | コスト | 例 |
1対1(個別) | 高 | 訪問介護、訪問看護、訪問入浴介護等 |
1対多(集団) | 中 | デイサービス |
1対大人数(遠隔) | 低 | オンライン見守りシステム等 |
国が示すように、「健康寿命の延伸」による介護対象者の低減化、「軽度から重度への移行」による重点化、「DX化による生産性向上」によるコスト削減は重要です。加えて、前述の1)〜3)の方策はいずれも欠かせないものです。これらには大賛成ですが、どうしても時間がかかります。だからこそ、それらを同時に進める前提で、社会保障費抑制のためのもう1つの視点として「1対多ケア」の推進を提言したいのです。
最後に補足しますが、訪問介護、訪問看護、訪問入浴サービスなどの個別性の高いケア、人手をかけた手厚いサービスを否定するものではありません。とても重要なサービスメニューです。私はコンサルタントとして、これらを手掛けるたくさんの事業者をサポートしてきました。そんな私が、これらのサービスを否定するわけはありません。
個別か集団かは、あくまで利用者本位であるべき。その点だけは誤解のないようにお願いしたいと思います。
株式会社スターコンサルティンググループ 代表取締役
一般社団法人日本デイサービス協会 理事
糠谷 和弘