生産性向上は“DX化”より“集団介護”をすすめるべき!(2/全3回)

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社会保障費を抑制する手段は?

前回の続きとなります。前回の記事はコチラhttps://pf.japandayservice.com/%e3%81%8a%e5%bd%b9%e7%ab%8b%e3%81%a1/post-1979/

社会保障費を“介護費”に限定して考えると、国庫負担を削減するための手段として私は、以下の3つの方法があると思います。

①財源を増やす

②「サービスメニュー」を減らす(対象者を減らす)

③「サービス(平均)単価」を落とす

一つひとつ検証してみましょう。

①財源を増やす

介護保険の財源を増やす工夫は、今後、本格的に進めざるを得ないでしょう。しかし、現状でも介護保険料が「高い」という不満は大きく、さらに高くすれば生活に支障が出る方が増えます。

そこで、現在は第2号被保険者(40才以上)に限定している介護保険料の徴収を、第3号被保険者まで広げようという議論があります。広く薄く負担を求めるということです。

他にも、サービスを利用した際の自己負担割合を、大きくしようという意見もあります。現在は所得によって1〜3割となっていますが、所得の判定基準を下げたり、1割、2割、3割の3段階に1.5割、2.5割負担を挟むなどして、利用者により多くの負担を求めるというやり方です。新型コロナウイルスで、世帯年収が落ちている世帯も多くありますから、慎重に議論すべきではありますが、前述のように後期高齢者が急増するのですから、ここは避けられないところかもしれません。

②「サービスメニュー」を減らす

次に「サービスメニューを減らす」という方法を検証しましょう。これには、反対される方が多いかもしれません。

そもそもいま、不必要なサービスがどれだけあるのでしょうか。たしかに“過剰”と思われるようなケースも散見されますが、仮にサービスメニューを2割、3割減らしたら、どんな世の中になるでしょう。想像もつきません。

総務省が行った調査によると、2017年時点で介護、看護のために離職した人は、年間99100人でした。その5年前の2012年で101100人です。減少したようにも見えますが、これは離職中の人の数をカウントしたものではありません。1年間の離職者の総計です。離職中となると、さらに数が大きくなるかもしれません。

これだけ介護サービスが普及した現在ですら、毎年10万人近い人が家族の介護、看護のために離職しているのです。解決策として、介護休業制度の範囲を拡大する方法があります。離職は減るかもしれませんが、職場復帰後までに介護しながら仕事ができる環境を準備するのが狙いです。リモートワークもそうですが、介護負担が減るわけではありません。離職は回避することができても、結局のところ介護サービスの力を借りなければ、根本的な解決には至りません。

それに、特養の待機者数はいまだに約29万人います。もしこの状況でサービスメニューを減らすとしたら、入所系サービスよりも在宅系サービスでしょう。では仮に、在宅サービスメニューを削減したら。離職者が増えることは容易に予想がつきます。少子高齢化による絶対的な人手不足の中、これ以上に現役世代の離職者を、増やして良いはずがありません。そもそもが、介護保険法整備の背景に「家族介護の限界」という問題があったわけですから。

少々視点が変わりますが、平成27年4月に「介護予防・日常生活支援総合事業」がスタートしました。平成29年からは、要支援1〜2の方々を対象としたサービスの一部が、市町村主体のサービスに移行しました。“地域事情に合わせる”ことを目的としたものでしたが実際には、内容や単価の変更による影響が少なからずありました。

株式会社エス・エム・エスが行った「総合事業に関する調査」では、「過去、総合事業を利用される要支援の利用者のケースにおいて、利用者がお困りになるケースがありましたか」という質問に、ケアマネジャーの49.2%が「はい(困った)」と回答しています。

サービスメニューを減らすことは、細かい部分ではあるものの、大きく削ることは社会的影響が大きいと言えます。

③サービス単価を落とす

介護報酬を下げるというのは、最もわかりやすい方法です。成果が予測できるからです。そのため、介護報酬改定の度に、財務省からは「下げろ」「もっと減らせ」のメッセージがあるようです。

過去にも、大幅な改定が2回ありました。最近では、平成27年4月の改定で2.27%のマイナス改定となりました。平成18年の2.3%に次ぐ減額幅でした。このときは、特に小規模通所介護の基本単価が、約10%も削減されました。

マイナス改定による影響は大きく、通所介護・地域密着型通所介護の数は、平成28年の43,440事業所をピークに減少傾向にあります。介護保険制度が施行された平成12年から16年間、デイサービスセンターはずっと増加傾向にありましたから、業界に大きなインパクトを残しました。

もちろん介護サービスは、平成12年の介護保険制度の施行により民間参入による競争を促したわけですから、事業所数が過剰になれば淘汰されるべきですし、減ること自体にはなんら問題はありません。しかし一方で、事業所単位で見れば、大きな問題があります。介護職員の給料水準が、他業種と比較すると低いという状況は、大きくは改善されていません。定員と単価が固定されているビジネス特性上、この課題は経営の工夫だけで乗り越えられるものではありません。処遇改善加算等で底上げする方法により、ギャップは小さくなってはいますが、まだまだ平均賃金には遠く及ばないわけです。この状況でマイナス改定は、業界として、介護職員としては許容できる状況ではありません。

しかし、個別のサービスの単価(単位)を下げずとも、“移行”することで“平均単価”を落とす方法はあります。例えば、2つの方法が考えられるでしょう。

①“施設・入所系サービス”から“在宅サービス”に移行する

②“個別(1対1)”から“集団介護(1対多)”に移行する

もちろん、大幅な移行は難しいでしょう。しかし、バランスを少し変えるだけでも、社会保障費においては大きな違いが出るかもしれません。その点を次のコラムでは「②「個別(1対1)介護」から「集団(1対多)介護」に移行する」で考えていきます。

株式会社スターコンサルティンググループ 代表取締役

一般社団法人日本デイサービス協会 理事

糠谷 和弘